PEST分析とは:マクロ環境分析

PEST分析のやり方:マクロ環境分析フレームワーク

マーケティング講師の海老原です。

マーケティング環境分析のフレームワークに、PEST、3Cがあります。PEST分析はマクロ環境、3C分析は業界環境を整理するマーケティングフレームワークです。

本記事ではPEST分析のやり方を事例を交え解説します。

※ 過去の筆者作成記事を基に大幅に加筆修正

1.PEST分析とは:マクロ環境分析フレームワーク

PEST分析は、業界を取り巻くマクロ環境を網羅的に捉えるフレームワークです。PESTとは、 Politics (政治)、 Economy (経済)、Technical(技術)、Social(社会)の頭文字をとったものです。

PEST分析

PEST分析の位置づけ

マーケティング戦略策定の流れにそってフレームワークをまとめたのが、次の図です。

マーケティング戦略とPEST分析

マーケティング戦略策定は大きく診断、基本方針、行動計画の3ステップに分けられます。診断に当たるのが環境分析です。

次に環境分析は、事実情報収集情報解釈に分けられます。事実情報収集のフレームワークがPEST分析3C分析です。

戦略策定プロセスごとのフレームワークを表にまとめます。

戦略基本3要素戦略策定プロセスマーケティング戦略フレームワーク
診断環境分析PEST分析(マクロ環境)、3C分析(業界環境)、SWOT分析
基本方針基本戦略(STP)Segmentation、Targeting、Positioning
行動計画マーケティングミックス(4P)Product、Price、Place、Promotion

マクロ環境とは

マーケティング研修でよく聞かれる質問の一つが「マクロ環境分析は、どこまで分析すればよいか」です。マクロ環境とはなんでしょうか。どの範囲を分析すべき対象と考えるべきでしょうか。

マクロ(Macro)には、英語で大きい、巨視的な、といった意味があります。マーケティング戦略策定の実務においては、「マクロ環境とは自社の所属する業界の外の話全部」と理解するのがシンプルです。

マクロ環境とは業界の外でPEST分析をフレームワークで使う。対して業界内(ミクロ環境)は3C分析をフレームワークとして使います。

2.PEST分析項目詳細

フィリップ・コトラー著「マーケティング原理」を元にPEST分析項目の詳細をまとめます。

PEST分析項目①:Politics(政治的環境)

「政治的環境(Politics)」 とは、所定の社会のさまざまな組織や個人に影響を与え、その行動を制限する、法律、政府組織、圧力団体からなります。

業界を規制する法律

適切な規制は、製品やサービスの提供において競争を促し、公正な市場を保証します。政府は、商取引を正しく行うための社会政策、社会全体のために企業活動を制限する規制や法律を策定します。

たとえば、企業の自由な競争を促進する「独禁法」などが代表的です。

PEST分析項目②: Economy(経済的環境)

市場は人口だけで形成されるのではなく「購買力」も必要です。消費者の購買力や支出パターンに影響を与える要因を「経済的環境(Economy)」といいます。

所得による変化

世帯収入が上がると、多くの消費者が高品質製品や、より良いサービスを求めるようになります。逆に、景気が悪くなると、慎重にお金を使うようになり、製品やサービスを購入するときは、より高い価値を持つモノを探すようになります。

所得格差

所得層の最上位に位置する消費者は、経済環境の影響を受けない支出パターンを示します。中流階級の消費者は支出に関して、慎重さはありますが、よい生活を追求する余裕を持っています。労働者階級では、支出は衣食住レベルでの必需品に限られ、倹約的な生活をします。

PEST分析項目③: Society(社会的環境)

「社会的環境(society)」とは、所属する国、地域、組織などが直接、間接的に自身の行動に与える影響のことです。社会的環境は、消費者の好み、購買行動などで市場特性に影響を与えます。

たとえば、一般に日本人は低品質なものを極端に嫌う傾向があります。よって日本市場では、同じカテゴリの商品でも他の国に比べ品質要求が高くなります。これは、社会環境の違いによって国具との市場特性が異なる例と考えて良いでしょう。

人口動態的環境

人口動態学は、人口を規模、密度、地域、年齢、性別、人種、職業などの統計を用い研究する学問です。人口動態的環境は人間に関する研究であり、市場を構成するのは人間であることからマーケターが意識すべき分野です。

たとえば、アメリカ合衆国の人口は、2007年に3億人を超えました。2020年の人口は3億3100万人です。人口動態で重要なのが「人口の年齢分布」です。アメリカの年齢分布は「砂時計型」になりつつあります。

  • ベビー・ブーム世代:1945~1964年頃に生まれた7800万
  • X世代(Generation X):1965~1979年頃に生まれた4500万人
  • Y世代(Generation Y):1980~1995年頃に生まれた7200万人
  • Z世代(Generation Z):1995年以降に生まれた7200万人

文化的環境

文化的環境とは、社会の基本的な価値観、知覚、選好、態度に影響を与える制度などの要因によって構成されています。人々は、ある社会で成長し基本的な信念や価値観が形成されます。そして、自他のリレーションシップを規定する一つの世界観を共有します。

PEST分析項目④: Technology(技術的環境)

「技術的環境(Technology)」は急速に進化しています。今日当たり前となった商品でも、100年前、あるいは30年前にですら手に入らなかったものがたくさんあります。現在人類の運命に最も劇的に影響を与えているものは技術的環境です。

新しい技術は、新しい市場と機会をもたらします。新しい技術はすべて古い技術に取って代わります。

  • 音楽:蓄音機→レコード→CD→データ(iPodなど)
  • 電子部品:真空管→トランジスタ
  • 映像配信:白黒テレビ→カラーテレビ→CATV→インターネット配信
  • 写真:フィルムカメラ→デジタルカメラ→スマートフォン

近年のインターネット、AIなどを始めとする急速な技術進化の背景に半導体の集積率が18ヶ月で2倍になるというムーアの法則があります。

▶▶ 参考リンク ムーアの法則とは(PESTのTechnology基本原則)

3.自動車業界 PEST分析事例

自動車業界のPEST分析事例です。

PEST項目PEST分析内容
Politics(政治、法制度)・EU排ガス規制が厳格化。それによりディーゼル車の減少とEV比率の増加傾向
・ブレグジット、イギリスの合意なきEU離脱。EUとの関税復活や不透明な取引環境によりイギリスの自動車関連工場が閉鎖
・米国の自動車/自動車部品関税値上げ
Economy(経済)・中国経済成長の減速。2018年中国は2,800万台の自動車市場となり世界の自動車メーカーへ大きな影響
・NEXT11の台頭
・新型コロナによる世界経済の減速。
Society(社会)・日本国内の高齢化率(65才以上)は28%でさらに上昇傾向
・少子高齢化による生産年齢人口減少
・所有欲求減少(低欲望社会)
Technology(技術)・IoTに適した次世代携帯網(5G)の整備。先進国では多くの車種がネットワーク接続機能標準装備に
・AI技術の進化。画像認識技術の強化により安全性向上。またAIにより自動運転技術が飛躍的に向上しつつある
・全個体電池など蓄電技術発展。当初EVは連続走行距離が短く用途が限られていた。蓄電技術向上により用途の幅が広がった。EVでコスト比率が高いバッテリーコスト低減も普及促進に

CASEと自動車業界PEST分析

自動車業界の最近の潮流を表す言葉にCASEがあります。CASEは、Connected、Autonomous、Shared、Electricの頭文字をとったものです。

PSET分析による自動車業界のマクロ環境要因により、結果として起きていることを整理する枠組みがCASEであるといってよいでしょう。

CASEPEST要因
ConnectedIoTに適した次世代携帯網(5G)の整備(T)
AutonomousAI技術の進化(T)、少子高齢化による生産年齢人口減少→労働力不足(S)
Shared所有欲求減少(低欲望社会)(S)
ElectricEU排ガス規制の厳格化(P)、蓄電技術発展によるパッテリー寿命増(T)

4.携帯電話業界 PEST分析事例

携帯電話業界ののPEST分析事例です。なお、ここでは業界定義として日本国内の通信キャリア(移動体通信事業者)を使います。

PEST項目PEST分析内容
Politics(政治、法制度)・NTTドコモ、ソフトバンク、au3社の実質的な寡占状態。政府は大手通信キャリアに割賦販売の禁止、通信料金の値下げなどの要求圧力が強い
・電波帯は公共物とされ携帯電話に使われる電波帯域、通信キャリア各社に割り当てられる電波帯域も法律に基づき厳密に決まっている。電波の割当には総務省の意向が大きく反映される
Economy(経済)・国内は人口減少社会へ。今後携帯電話利用者のパイは減る方向へ
Society(社会)・日本における携帯電話の合計契約数は1億7307万件、普及率は137%(2018年現在)。80才以上でも普及率は67%でありもはや老若男女すべてが携帯電話を使うほど社会に浸透している
Technology(技術)・2021年現在4G(LTE)は全国で高速回線の整備が完了。都心部では5Gも整備が進む回線高速化により移動中に高精細な動画視聴が可能。またIoT環境の普及に後押し

5.PEST分析のやり方

PEST分析は、シンプルでわかりやすいフレームワークです。しかし使いこなすにはノウハウも必要です。PEST分析のやり方、コツについて解説します。

PEST分析で始めにやるべきこと

PEST分析を行うとき一番始めに行うことはなんでしょうか。それは業界定義です。

筆者はマーケティング講師として多くの受講生のPEST分析をみてきました。ここで業界定義をおざなりにしたままPEST分析を進めてしまう間違いをよく見かけます。例えば、4つのグループで異なる業界のPEST分析ワークをしてもらうと、AI、少子高齢化、クラウドなど汎用的なキーワードだけ並べたほぼ同じアウトプットになることがよくあります。

PESTは世の中の大きな流れを捉えるため様々な業界に共通したキーワードが出てくるのは当然です。しかし、例えば同じAIといっても、自動車業界にとってのAIと小売業界にとってのAIは意味合いが大きく異なるはずです。

PEST分析ではまず業界定義が先です。そのうえでキーワードの羅列に終わらせず対象業界の文脈に沿った示唆を出していきましょう。

PESTの分け方

筆者がマーケティング研修でよく聞かれる質問がPESTの分け方です。PEST分析を実際に活用したことがある方は、思いついた項目をどのカテゴリに入れるべきか迷った経験があるでしょう。

PESTの分け方

例えば、自動車業界のPEST分析において「シェアリング」はどのカテゴリに属するでしょうか。答えは「解釈次第でどこでもあり得る」です。

所有欲の減少といったシェアリングを可能とする社会的変化の話であればSocietyです。一方、クラウド、モバイルネットワークの発展などシェアリング実現のための技術面の話であればTechnologyです。

このように同じシェアリングでも文脈次第で複数のカテゴリに属することがあり得ます。逆の見方をすると、PEST分析で項目を洗い出すときは「キーワードだけで終わらせないこと」が重要です。「シェアリング」「AI」「少子高齢化」これらのキーワードの羅列で終わらせず、どんな要因によってどんな結果が予測されるか、主語述語を明確にして表現します。

6.PEST分析を使った市場機会発見

PEST分析のマクロ環境トレンドの変化は自社にとって脅威であると同時にチャンスです。

PEST分析で市場機会を発見し、マーケティング戦略立案に活用します。

マクロ業界トレンドを掴んで成功した企業例

PEST分析のマクロ環境トレンドを掴んで成功した企業の事例をまとめます。

企業PESTのマクロ環境要因
インテルパソコンの消費者への普及(Society:社会)
ムーアの法則による半導体の指数関数的性能向上(Technology:技術)
Google(Alphabet)インターネットの消費者への普及、モバイルインターネットの普及(Society:社会)
経済のグローバル化(Economy:経済)
低コストで大容量のインターネット回線(Technology:技術)

(文責:プロジェクトファシリテーター、ロジカルシンキング講師 海老原一司)


(参考)関連記事まとめ

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ニーズ

環境分析

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クープマンの目標値

PEST
3C
SWOT

基本戦略(STP)

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マーケティング・ミックス(4P)

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Product
Price
Place
Promotion

(参考)企業研修プログラム

マーケティング研修プログラム

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課題解決型 営業研修

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ニーズヒアリング研修

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