ムーアの法則とは(PESTのTechnology基本原則)

ムーアの法則とは(PESTのTechnology基本原則)|環境分析

マーケティング講師の海老原です。

ムーアの法則(Moore’s law)とは、インテル創業者の一人であるゴードン・ムーアが、1965年に自らの論文上で唱えた「半導体の集積率は18か月で2倍になる」という半導体業界の経験則です。

電子工学と経営学のダブルマスターを持つ筆者が、テクノロジーとマーケティングの両面からムーアの法則について解説します。

※ 本記事は、過去の筆者作成記事(ムーアの法則とは-半導体性能の原則)を元に大幅に加筆修正したものです。

ムーアの法則の技術的意味 -半導体性能向上の原則

ムーアの法則が示す「半導体の集積率が18ヶ月で2倍になること」の技術的意味はなんでしょうか。

「半導体の集積率」とは、「同じ面積の半導体ウェハー上に、トランジスタ素子を構成できる数」のこと。ムーアの法則が示すのは、半導体製造の微細化技術進化により、半導体の最小単位である「トランジスタ」を作れる数が、同じ面積で18ヶ月ごとに2倍になるということです。

たとえば、下記のように指数関数的に増えていきます。

  1. 0: 100個
  2. 1.5年後: 200個 2倍
  3. 3年後: 400個 4倍
  4. 4.5年後: 800個 8倍
  5. 6年後: 1,600個 16倍
  6. 7.5年後:3,200個 32倍
  7. 9年後:6,400後 64倍
  8. 10.5年後:12,800 128倍

ムーアの法則では半導体の集積率が18ヶ月で2倍。つまり、単位面積当たりに作成できるトランジスタ数が18ヶ月で2倍になります。 このような指数関数的変化が継続すると例のように約10年で100倍もの大きな変化が実現します。

さて、単位面積当たりのトランジスタ数が増えることは、より具体的にはどんな意味を持つのでしょうか。ムーアの法則の技術的意味は、「性能面」と「価格面」の2つから説明できます。

半導体の性能が18ヶ月で2倍になる

ムーアの法則で、「集積率が上がること」は、「性能が上がること」と同義です。
そのため、半導体の性能、たとえばCPUの性能は18ヶ月ごとに2倍になります。1秒間に100個の処理をしていたCPUが、18ヶ月後には同じ面積のCPUで200個の処理ができるようになります。

半導体のコストが18ヶ月で半分になる

ムーアの法則では、性能同様に18ヶ月で半導体のコストも半分になります。 トランジスタ1個の性能が同じとすると、18ヶ月後には、同じ面積で2倍の半導体が作れます。

つまり、同じコストで、2倍の半導体素子が作れます。そのため、求める機能・性能が同じ場合はコストが半分。例えば、同じ性能のCPUが半額になります。

ハイテクマーケティングとムーアの法則

ムーアの法則は、技術的原則です。しかし、ハイテクマーケティングでは、必ず押さえておくべき半導体性能の原則です。IT業界では、ムーアの法則を理解していないと致命的な戦略ミスを犯す可能性があります。

マーケティングのマクロ環境分析にPEST分析があります。ムーアの法則は、PEST分析のTechnology(技術)に大きな影響を与えます。

指数関数グラフと対数関数グラフ

IT業界に代表される大きな変化を「指数関数的変化」「幾何級数的変化」ということがあります。半導体の性能向上など長期に2倍ごとの成長が続くと左の「指数関数グラフ」のような急激な変化が起きます。

一方、テクノロジーにおいて、半導体以外で指数関数グラフを描く分野は実はそれほど多くありません。太陽光発電効率上、ガソリンエンジン燃費向上などは、5年、10年かけて10%前後の性能向上目指すのが普通です。これは、右の対数関数グラフの曲線を描きます。

自社が属する業界のテクノロジー特性が、指数関数グラフか対数関数グラフのどちらが近いか、しっかり理解しておきましょう。

ムーアの法則で変化したIT業界のKSF

ハードウェアからソフトウェア開発力へKSFが変化した

初期のIT業界では、「コンピュータ」といえば「ハードウェア」のことでした。 たとえば、メインフレームと呼ばれる大型で、高額のコンピュータでは、ソフトウェアは「おまけ」と考えられていました。

ムーアの法則により、コンピュータ性能は飛躍的に向上し、価格もどんどん低下しました。そこで、相対的に重要になってきたのがソフトウェア開発力です。ハードウェア開発力からソフトウェア開発力へ徐々にKSF(Key Success Factor)が移行していきました。

ソフトウェア開発力をKSFとした成功例:シスコシステムズ

ソフトウェア開発力をKSFとして成功した企業の代表例として「シスコシステムズ」があります。

シスコシステムズは、1984年創業でベンチャーから、ネットワーク機器業界で支配的な地位を築きました。2000年には、時価総額世界1位になりました。

シスコシステムズ成功の背景には、「ソフトウェア開発力」が大きいといわれます。ハードウェアのコアとなるCPUは価格が安く十分高性能でした。そこで、シスコシステムズは、ハードウェアは汎用品を利用し、ソフトウェア開発力の向上に積極的に投資し、豊富な機能を持ったネットワーク製品を作り上げました。

ハードウェア開発とソフトウェア開発の大きな違いは「開発スピードの差」です。同じ機能を追加開発する場合、一般的に、ハードウェアに比べソフトウェアの方が圧倒的に早いスピードで開発できます。

ソフトウェア開発力をKSFとして、製品開発能力を磨いたシスコシステムズは、IBM、DECなどハードウェア開発を得意とする巨大企業を敵に回しながら、圧倒的な勝利を収めました。

ハードウェア開発とソフトウェア開発の違い

「一般に、同じ機能を追加開発する場合ハードウェアに比べてソフトウェアの方が圧倒的に早いスピードで開発できる」と書きました。

これはどういうことでしょうか。シスコシステムズが支配したネットワーク機器。その中でも特に重要だった「ルーター」というネットワーク機器について考えます。

ルーターの製品開発方針には、ハードウェア開発中心とソフトウェア開発中心の2つがあります。ハードウェアとソフトウェアでは開発スピードに大きな差があります。経営戦略の大家リチャード・P・ルメルトは、著書「良い戦略、悪い戦略」で、2つの違いについて背景の原理を踏まえ詳しく言及しています。

開発スピードの差は、主にトライアンドエラーの繰り返しスピードの差から生じます。

たとえば、ルーターの仕様をすべてハードウェアベースで設計し実機を作成します。1度で設計通りに動けばよいですが、開発失敗したときハードウェアでは、設計を修正して再度動作を確かめるには何ヶ月ものサイクルがかかります。

一方、ソフトウェアベースで開発した場合、修正版を再度試すサイクルは数週間。早ければ、日単位です。

当時ネットワーク機器開発では、ハードウェア中心で開発していた企業が多数の中、シスコシステムズは、少数精鋭のソフトウェアエンジニア集団を作り上げ、短いサイクルでトライアンドエラーを繰り返しました。そのため、ハードウェア開発中心の他社に比べて、圧倒的に早いスピードで、機能開発・改善ができたのです。

(文責:プロジェクトファシリテーター、ロジカルシンキング講師 海老原一司)


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