毎年100本決裁をとり続けた稟議書の書き方5つのコツ

毎年100本決裁をとり続けた稟議書の書き方5つのコツ

「あなたは、稟議書決裁をとることに苦労してませんか?」
「稟議書の書き方のコツを知っていますか?」

ロジカルシンキング講師の海老原です。

筆者は、15年以上の新規事業プロジェクトマネジャー経験のなかで大量の稟議書を通してきました。一番多いときは、2年連続100本の稟議書を書いていました。営業日に直すと2日1本ペース。決済が下りるまで、1、2週間はかかるので、常に5本前後の通すべき稟議書を抱えている状態です。

東京経済オンラインでも稟議書のプロとして紹介された筆者が「最短決裁時間」「ほぼ100%確実に」かつ「低労力で」稟議書決裁をとるための5つのコツを教えます。

「稟議書の種類に応じた書き方」「決裁者のクセを掴む方法」など実務現場で磨いた稟議書テクニックです。

※ 本記事は、過去の筆者作成記事を再編集したものです。

1.稟議書とは

稟議書の定義

稟議書とは、会社の費用支出がある場合や社外と契約書を締結する場合に、企業内で実行承認を行うための書類です。

「起案者」が作成し、社内で規定された権限に基づき、起案者の上司や関係者が「決裁承認」します。一義的には稟議書は、書類・文書のことです。しかし、実務上は、「社内稟議書とは書類を含めた企業内の承認業務フロー全体のこと」と理解すべきです。

なお、厳密には稟議書は、決裁書・起案書とは異なります。ただし、企業の社内業務においては、実質的に「稟議書は、決裁書・起案書と同じもの」と考えて良いでしょう。

▶▶参考 Wikipedia「稟議書」

稟議書の書き方の基本

稟議書には、「これが記載されていないと承認されない」という必須の基本項目があります。

稟議書の書き方でまず理解すべきは記載すべき基本項目の内容です。下記5つの項目が網羅されている必要があります。

  1. 稟議書案件の実行目的
  2. 稟議書案件を実行したときの金額(支出または収入がある場合)
  3. 稟議書で承認してほしい契約書内容(契約書締結が必要な場合)
  4. 稟議書案件の予想リターン
  5. 稟議書案件の実行リスク

多くの会社で、社内稟議書の承認フローは業務規定でマニュアル化されています。一方、本来何を書くべきかはほとんど説明されていません。私は過去100人以上の商品企画者が稟議書の書き方を見てきました。その経験から、稟議書が却下される原因の多くは、初歩的な基本項目記載モレである、と断言できます。

この5つの基本項目を踏まえた稟議書の書き方を意識するだけで承認確率はぐっとあがります。

稟議書例文

具体的な、稟議書例文を見てみましょう。構成や文言の書き方などの注意点は、過去の実在の稟議書を、ほぼ再現しています。稟議書例文を通して、基本5項目の書き方を確認してください。

【タイトル】セールスフォース社SFAサービスの営業部への導入について

■1.目的・概要

当社の営業部では営業効率向上が課題となっている。昨年度売上が未達であり営業担当者一人当たり10%の売上アップが必要。営業効率向上のためセールスフォース社SFAサービスを営業部メンバー20人に導入するための承認お願いします。

■2.契約予定サービス

1)サービス
セールスフォース社SFAスタンダードライセンス 20ライセンス
2)費用
月額費用:1万円(スタンダードライセンス)×20ライセンス=20万円(税別)年額費用:1万円(スタンダードライセンス)×20ライセンス×12ヶ月=240万円(税別)
※ 営業部メンバー20名全員にライセンスを付与予定

■3.導入効果

重点顧客の訪問効率化、受注率向上により1人当り売上昨年比10%向上予定。
また、受注データ連係により、これまで営業事務2名が毎月3日間かけていた営業データ集計作業が1日に短縮される。

■4.リスク

情報システム部の監査も受けておりセキュリティ上の懸念がないことを確認済み。
ただし、各営業担当者がモバイル端末で閲覧可能な個人情報データが増えるため情報漏洩リスクが高まる。データ取得権限の制限とセキュリティ教育で対応予定。

■5.本稟議に関連する契約

添付PDFの契約書を締結予定(※法務部確認済み)。

■6.その他補足事項

セールスフォース社以外に2社の競合サービスを比較したが、機能が充実していること、中途入社の管理職層に使用経験者が多いことからセールスフォース社を選定した。 添付比較表参照。

2.効率化すべき稟議書の種類

稟議書の労力削減のためには「一番本数が最も多く改善効果が高いテゴリ」で、起案から決裁までを省力化・高速化します。それは「計画内稟議」です。

多くの企業で「予算金額」「予算内容」とも「年初計画内」の稟議書決裁の割合が一番多いものです。

「計画内」と「計画外」の稟議書は決裁者のスタンスが異なる

「年初計画内」は、稟議書決裁者の承認スタンスが、「計画外案件と異なる」ため効率化が容易です。

定義上「計画内の稟議書は、予め年初に予算計画承認済み」です。よって、決裁者の稟議書確認スタンスは「当初計画予算の金額と執行内容が、年初計画通りか確認するだけ」になります。

この決裁者のスタンスの違いに着目し、効率化を実現します。

  • 年初計画外の決裁者スタンス:ゼロベースで審議する(厳しいチェック)
  • 年初計画内の決裁者スタンス:計画通りに進んでいるか確認だけ(緩いチェック)

3.毎年100本決裁をとり続けた稟議書の書き方5つのコツ

毎年100本決裁をとり続けた稟議書の書き方5つのコツ

稟議書の書き方のコツ ①「計画通り」を強調

「今回の稟議書が、決裁者自身が承認済みの年初計画予算通りであることを強調すること」が、稟議書の書き方のコツです。

決裁者は忙しいものです。決裁者に「あなたが承認した予算計画通りに進んでいます。よって、この稟議書は承認して安心です」と、一目でわかるように記載します。

稟議書の書き方のコツ ②プラスよりリスクをケア

決裁者の稟議書チェックで、年初計画通りなら、売上の上振れなどの「プラス要素」はほぼノーチェックです。一方、「マイナス要素」「リスクファクター」は、厳しくチェックされます。

決裁者に指摘されそうな「マイナス要素」や「リスクファクター」は、解決済み、または許容範囲内であることを稟議書内で根拠付きで示します。

稟議書の書き方のコツ ③計画内案件の比率を上げる

「年初計画内稟議書」の割合を増やすよう意識的に努力していました。

例えば、ITサービス事業を担当していましたが、購入すべき機器が、半年ぐらいで次々後継機に変わります。そのため、年初予算計画時に、稟議時に購入機器が、当初計画時の予定と多少ブレがあっても問題ないよう、様々なテクニックを駆使して年初予算計画を作ります。例えば、購入機器の詳細をあえて指定せず、「●●シリーズ」などと記載しておきます。

また、年初計画では、担当役員など重要な決済者とは、「ここは、ブレる可能性がありますが、大目に見てください」と事前に握っておくなどのテクニックも使いました。

稟議書の書き方のコツ ④健全な根回し

「稟議書差し戻し」で承認が1回分遅れたらアウト。顧客にサービス納品できなくなるスピード感の事業を回していました。そこで、確実に一発で稟議書決裁承認をとるコツが「健全な根回し」です。

「根回し」といっても簡単な工夫でOKです。「稟議書を書いた直後に、キーマンとなる決裁承認者と30秒程度会話する」というテクニックを使っていました。

例えば、「A社案件の稟議書を申請しました。条件はいつもと同じです。お客様がすぐ導入したいそうですので、早めに決裁承認お願いします。」と口頭で伝えます。この簡単な根回しをするだけで、決済者は「ああ、この稟議書、シナプスがいっていた件だな。事前に聞いていたとおりだな。」と認識され、稟議書が決裁承認される確率もスピードも上がります。

稟議書の書き方のコツ(上級編) ⑤決裁者のクセを掴む

稟議書決裁者のクセを掴み、稟議書の書き方を工夫し、省力化を実現していました。決裁者も人間。合理的に判断しようとしますが、個人のクセがあります。

それでは、「どうやって決裁者のクセを掴むか」。答えは「似た種類の稟議書決裁のたびに、少しずつ記載内容を変更し『実験』して確かめること」です。

例えば、同じ設備の再購入の際に、稟議書のある項目を削除したり、購入設備の書き方を変えてみます。この実験で「この承認者は、どこを重点的にチェックしいてるか。逆に、チェックしないところはどこか」を把握します。そして、承認される稟議書の書き方の最低ラインを見極めます。

決裁者の最低承認ラインを把握すれば、「必要なことだけ記載し、最低限の労力で稟議作成」できます。

(文責:プロジェクトファシリテーター、ロジカルシンキング講師 海老原一司)

■稟議書に関する海老原取材記事(東洋経済オンライン)

稟議書のプロとして東洋経済オンラインに取材された記事です(2017/09/30)。

取材記事引用

次に取材記事一部を引用します。

「素早く確実に稟議書を通せるようにならないと、多くの仕事をこなせず、成果も挙げられません。若いうちから稟議書を通すノウハウを身に付けたほうがいいですよ」と話すのは、企業研修やコンサルティングを手がけるシナプスのチーフコンサルタント・海老原一司氏。
かつてIT企業で新規事業を手がけていた時、年間100本の稟議書を通していたという強者だ。

東洋経済オンライン

1で挙げた項目のうち、とくに念入りに書いたほうが良い項目は、「リスク」だ。
「稟議書は、一言で言えば『あら探し』をする書類。会社に損失を与えるようなことにゴーサインを出したとなれば、その上司の責任になりますからね。だから、リスクの部分はとくに注目します。ところが、若い人はリスクの記述が甘い人が多い」(海老原氏)

東洋経済オンライン

リスクに加えて、どれだけの成果や効果が見込めるのかという「リターン」に関する記述が甘い人も少なくない。
契約でも物品購入でも、お金をかけた以上は、必ずリターンがあることを示すことが必要だが、「実際には『大口顧客だから値引きして』といった程度しか書いていない稟議書をよく見かけました」(海老原氏)。
「今回の取引で値引きすることで、もっと高額な製品の受注につながる」といったリターンの可能性をきちんと明示することが必要だ。

東洋経済オンライン

東洋経済オンライン取材記事リンク

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