仮説検証

仮説思考で問題解決力を高める

「あなたは仮説思考を身につけていますか?」

仮説思考は活用範囲が広いビジネススキルです。一方、重要度、有効性の割に浸透していないスキルでもあります。本記事では、問題解決やマーケティングに必須の仮説検証サイクルを回すコツを解説します。

1.仮説検証とは(仮説思考)

元ボストンコンサルティンググループ日本代表の内田和成さんは、著書「仮説思考」で次のように述べています。

仮説とは、十分に情報がない段階あるいは分析が済んでいない段階でもつ「仮の答え」「仮の結論」。常に答えを持ちながら全体像を見据える習慣を仮説思考と呼ぶ

内田和成著「仮説思考」より
[内田 和成]の仮説思考―BCG流 問題発見・解決の発想法 内田和成の思考

仮説思考でと通常の思考法との違いを次の表にまとめます。

通常の思考法仮説思考
情報は多ければ多いほどよい情報コレクターは意思決定できない
すべての情報を網羅し分析する情報網羅より大局観
分析して答えを出すまず仮の答えを出し、合っているか検証する

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仮説検証とは

仮説思考に基づき仮説検証を行います。ここで仮説検証とはより具体的には何を行うことでしょうか。大きく次の3ステップに分解できます。

  1. 未来に起こることを予測すること(仮説立案)
  2. 何が起きたかを認知すること(検証情報収集)
  3. 起こったことと予測を比較し分析すること(仮説検証)

仮説検証の流れ(ニーズヒアリングの例)

法人営業のニーズヒアリングを例として、仮説検証の流れを示します。

仮説検証の流れ

ニーズヒアリングの仮説検証は次の3ステップです。

  • 訪問前にニーズ仮説立案
  • ヒアリングで検証情報を収集
  • 集めた情報を元に検証

法人営業では顧客ヒアリングが検証情報収集のための主な手段です。

2.なぜ仮説検証が必要か

戦略立案から営業商談まで、すべてのビジネスアクションには仮説が必要です。もし仮説がないと行き当たりばったりに行動をすることになり多くの無駄が発生します。

なぜ仮説が必要か
仮説がない場合(左)とある場合(右)

仮説検証すべき理由

仮説検証すべき理由の一つ目はスピードがあがることです。先に仮の答えを出してその検証を行う。対象を予め絞り込むため網羅的な情報収集に比べ素早く分析が完了します。対象が複雑になるほどスピードの差は歴然です。例えば、マーケティング戦略立案では仮説を立てない場合に比べ労力が1/10になることも珍しくありません。

仮説検証すべき理由の二つ目分析精度の高さです。網羅性よりスピードを重視すれば一見分析精度を犠牲にしているように思えます。しかし短期間で一度分析を終わらせるができれば、何度か仮説検証を繰り返すことができます。仮説検証実践の真骨頂は、サイクルを回すことで分析精度を上げることです。

3.仮説検証サイクルとは

次に仮説検証の流れについて解説します。

仮説検証サイクル

法人営業のニーズ仮説検証例を再度示します。

ニーズの仮説検証

ここで重要なのは仮説立案→検証情報収集→検証という3ステップを繰り返すこと仮説検証はサイクルです。3ステップを1サイクルとして仮説検証を繰り返して徐々に精度を高めます。

仮説検証スパイラル

仮説検証は図のように繰り返しスパイラルで回転しながら上に向かっていくイメージです。仮説検証サイクルを1つ回すごとに精度が上がってきます。

仮説検証スパイラル

4.仮説検証サイクルを回す5つのコツ

仮説検証サイクルを回すためのコツを紹介します。

仮説検証サイクルを回すコツ①:考える+行動

仮説検証サイクルを回すコツの1つ目は「考える+行動」です。

仮説検証サイクル3つのコツ

ロジカルシンキングでは多くの場合、行き当たりばったりの行動をしない、動く前にしっかりと考えることが強調されます。仮説検証では、深く考えることはもちろん必要です。しかし、重要なのは、考えることと行動することのバランスです。

仮説思考の落とし穴の一つは、初期仮説を考えるのに時間を使いすぎてしまうこと。仮説思考を使いこなすには、柔らい状態でよいので初期仮説を立て、すぐ行動してフィードバックを得ることが重要です。フットワーク軽く行動できる人は、仮説検証サイクルを回すスピードが数倍早くなります。

仮説検証サイクルの回数と仮説の深さはほぼ比例します。

仮説検証サイクルを回すコツ②:間違いを恐れない

仮説立案で陥りがちなワナと回避するための心構えを説明します。

仮説とは「仮の説明」。定義として間違っていて当然です。しかし、この間違っているかもしれないものを出すことが仮説検証の心理的ハードルになることが多いです。

筆者がロジカルシンキング研修やプロジェクトサポートで仮説立案を促すと、次のような反応が目立ちます。

「今の情報だけだと、なんとも言えないですね」
「間違っているかもしれないのでなんとも」
「場合によりますね」 「まずは調査させてください」

仮説立案の心理的ハードルは意外と乗り越えるのが難しいものです。間違いを恐れないこと。「仮説は仮の説明でしかない。間違っても良い」という意識変革が必要です。

仮説検証サイクルを回すコツ③:仮説なき調査は時間の無駄

仮説検証のためには調査が必要です。しかし、調査で陥りがちなワナがあります。

調査の基本

仮説なき調査は時間の無駄です。目隠しで弓を射ているようなもの。作業にきりがなく、作業をどこまで進めたらよいかもわかりません。目的なき調査と言い換えても良いでしょう。

一方、「精度の高い仮説ができないから調査しない」をよく見られる行動です。この場合もまた調査が進みません。
ざっくり仮説をつくり、ざっくり検証をする。そしてこのざっくりした仮説検証をたくさん行うことが必要です。Quick&Dirtyとも言います。

仮説検証サイクルを回すコツ④:役に立つ情報とは

仮説検証では情報収集が必要です。しかし、集めた情報すべてが仮説検証に役立つわけではありません。むしろ役に立たない情報がほとんどです。役に立つ情報とはどのようなものでしょうか。

検証に必要なのは足で稼いだ事実情報です。世の中にあふれている当たり障りのない調査資料では参考にはなっても、問題解決の急所に迫ることは出来ません。

検証に役立たない情報例

役に立たない情報例です。

  • ググった情報
  • とりあえず集めたアンケート
  • 単なる財務データ
検証に役立つ情報例

役に立たない情報例です。

  • 顧客ヒアリングで得た情報
  • パートナーヒアリングで得た情報
  • 社内ヒアリングで得た情報
  • 仮説に基づき分析した財務情報

仮説検証サイクルを回すコツ⑤:表現を磨く

仮説検証精度を上げるポイントの一つが、表現方法を磨くこと。例えば、マーケティング担当のあなたに自社営業担当者が、次のように回答しました。どう感じますか?

この新技術は、あのお客様に売れそうです。
理由? 長年の営業のカンですよ。

この営業担当者には仮説はあるのです。しかし、明確に表現されていないことが問題です。

検証可能な仮説表現にする

仮説を言葉にするときは、わかりやすく明瞭で誤解ない表現を目指します。表現を磨くことで2つのメリットがあります。

  • 仮説検証できる(表現が曖昧だと検証困難)
  • 組織内で仮説を共有できる(読み手によって解釈が変わらない表現にする)

5.(応用)仮説検証による問題解決プロセス

ビジネスで仮説検証が活躍する場面が問題解決です。問題解決プロセスにおける仮説検証サイクルについて解説します。

問題解決プロセス

問題解決プロセスは次の4ステップで表されます。

問題解決プロセス

問題解決プロセスにおける仮説立案

問題解決プロセスと仮説検証の対応を考えます。問題発見→問題定義→問題特定→解決策立案というプロセスごとに仮説の具体例を表で示します。

プロセス問題解決の仮説例
問題発見売上は変わらないのに毎年利益率が落ちている。課題がありそう
問題定義既存市場の利益率は変わらないが右肩下がり。開拓した新市場で売上はカバーしているものの利益率が大きく下がる。このまま利益が下がり続ける事業構造ではないか?
問題特定新市場の利益率向上は困難。既存市場は下がっているものの大企業の企業内横展開にチャンスがあるのではないか?
解決策立案大企業顧客担当の営業は複数人いるが支社単位でリソース配分している。営業戦略を立全社視点でリソース最適化すれば既存市場のさらなる開拓は可能ではないか?

問題解決のための仮説表現

問題解決。特に企業で組織的に問題解決に取り組むときは「検証可能」「共有可能」の2つの条件を満たすことが必須です。仮説は検証可能なような曖昧さを排除した表現、誰がみてもわかり誤解が生じない共有可能な表現にすべきです。

問題解決プロセスと仮説検証サイクル

問題解決プロセスにおける仮説検証サイクルのイメージを次に示します。

問題解決プロセスと仮説検証サイクル

問題解決プロセスは直線的に分析が進むように思えます。実際の問題解決プロセスでは、各ステップで仮説検証を繰り返します。例えば「解決策立案でどうしても突破口が見つからないので、問題特定プロセスに戻る」のように行きつ戻りつ進めるのが実践的です。


(文責:プロジェクトファシリテーター、ロジカルシンキング講師 海老原 一司)

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