修羅場

「よくある」新規事業立上げの修羅場の話

ロジカルシンキング講師の海老原です。

「修羅場経験の話をしようか。 – こういう組織はもう辞めにしよう」という外資日本法人撤退の「修羅場体験」が一時話題になってました。
コメントをみると「これは、すごい」「社長がひどすぎる」などの感想がでていました。

私は複数社で新規事業立上げを経験しました。この程度は何回かあるし「よくある修羅場」ではないかとコメントしました。

すると、経験豊富そうなMBA卒業生からも自分は経験していないとのこと。その経験は貴重のようなので「新規事業のよくある修羅場の話」を紹介します。

転職1年目で周りが全員討ち死にした修羅場の話

私はキャリアの半分以上が新規事業のプロジェクトマネジャー。そのうち3年間で売上100倍にしたときがありました。その3年間の話「ではなく」、その前の転職1年目で事業が消えかかった修羅場っぽい話です。

私は、ベンチャーに転職しました。当時の社員数は200人くらいだったでしょうか。IT業者が軒並みクラウド事業をはじめた時代、クラウドを2番目の事業の柱にしようとしていました。新規事業として立ち上げ2年目。クラウド事業企画担当として入社しました。

よく覚えていますが転職時の面接官は、私が所属することになるサービス開発部の部長、課長、主任の3名。入社後は4人でクラウドサービスを担当しますが、まさか1年後にみんなが討ち死にして、海老原一人になるとは思わなかったのです。

目の前の人と会話しない痛々しい部の話 

入社して直ぐわかったのは、部の面々が仲が悪い(笑)

私の向かいに座っているK課長と左隣に座っているMさんは、常にメールでやりとりしています。3人のやりとりもメールです。K課長からToMさん、CC海老原、またMさんからCC海老原で返信。

距離わずか80cm、ここにベルリンの壁みたいなのが立っている!

責任を狭める組織文化の作り方と部長の名言

1ヶ月もすると全員がほぼ同じ台詞を吐くのがわかってきました。

「それは、私の仕事じゃないんで」

英語で言うと、It’s not My Business.こういう責任範囲を限定したい人は、よく見てきましたが、部の全員が判で押したような同じ反応をしてくるのは、少し異常です。

しばらくして、この組織文化を創っている主犯は部長ということがわかってきました。確かにI部長はキャパを超える仕事ある。しかし、「忙しいので、仕事を振るな」というのをあからさまに態度に出してきます。

あるとき引き継がれた仕事がよくわからなかったので「ちょっといいですか」と小会議室でを打ち合わせすると、海老原仕事人生で5本の指に入る名言を、I部長がはきました。

「そんなの俺に聞かなくてもいいだろ。
相談するなよ!」

えっ、おれ上司に相談しちゃいけないの? 空耳か、空耳なの?(笑)

こうやって、閉鎖的組織文化が作られるのか。と変な関心をする私。

初対面の営業部長からいきなり雷落ちる

部の雰囲気が危険だなと思っていたら、他の部とも関係が良くないことが判明します。あるときK課長が作ったクラウドの資料を営業に展開してほしい、と頼まれました。

はいわかりましたと、営業メーリングリストに資料を送ります。すると、営業が強い会社によくいる、鬼軍曹か、ヤクザかという雰囲気のY営業本部長からTo海老原、CC営業全員で返信がきました。

「こんな資料を送るだけで、本当に営業が売れると思ってるの?」

え、TOおれ? おれなの。 と、初対面、というか一度も会話したことない、部長からいきなりのカウンターパンチ。なんだ、これはー。

※飲み会でY部長と初会話「で、なにやりたいの?」「こうこうこうしようと思います」って、仲良くなったのは1ヶ月後の話。 

新規事業の谷 ー魔の3年目

そんな状態で2年目が終了しますここであり得ない話、上場企業では合ってはいけないことが起きます。新規事業2年目の予算達成率が1桁%、10倍以上の予算乖離です。

ここで新規事業でよくある修羅場に入ってきます。魔の3年目。私は3,4社で体験しているので「新規事業ではよくあるよね」と思いますが、10倍予算乖離すると、企業としてはやばい。経営陣がざわざわしてきます。上場企業なら株主説明も考えなければなりません。

この魔の3年目までの流れを振り返ってみます。新規事業のよくある流れです。

【0年目】 新規事業がトップダウン気味で企画される。スピード命のかけ声とともに見切り発車気味で準備
【1年目】 新商品・新サービス発売。右肩上がり、直角三角形の売上予算が計画される。少し売れる。
【2年目】 1年目予算計画の勢いそのまま、長方形の上に右肩上がり直角三角形を載せた予算が組まれる。初月から絶望的な達成率で、最後に少し売れるも。10倍以上の予算乖離で終わる。

さて、新規事業の谷、魔の3年目。2年目終わって光明が見えてこないと、「俺は長い目で見てるよ」とかいってた経営陣たちも、我慢できなくなってきます。

魔の3年目で起きること ー組織が解体される

さて、この状態の組織で何がおきるか。答えは新規事業を行う組織の解体です。私の場合、なかなかエグい解体でした。

まず起きたのは、例の「俺に相談するな」といったI部長の退職です。前々から社内各所からの風当たりが強かったところ。そろそろ経営陣が見限った部分もありそうです。

次に、K課長が子会社に飛ばされます。企画職課長から子会社の営業への異動。まさに「飛ばされる」という感じ。半年後に退職することになりますが、どうやら自分から退職するようにもっていったようです。こえー。

そして、K課長から、I部長に続き、海老原社会人生活5本の指に入る名言を得ることになります。K課長が残したよくわからない仕事について質問すると。

K課長「私、もう関係ないんで。」
海老原「え、でもKさんしか聞く人いないので・・・」
K課長「でも、私もう関係ないんで。」

え、質問の回答すらしてくれないの。1年弱前に一緒にランチしながら「私は逃げないので、安心してください。」といった同人物の言葉とは思えません。これが、信頼を裏切られるということか。がーん。

このあと売上100倍にするのは、また別の話

結局1人残された私。あるとき担当役員に「えーと、私どうすればいいんですかね?」と聞いてみた。答えは「好きなようにやって」

えー、何そのプレッシャー。まあ、いいかと思って好きなようにやりました。これから3年間で売上100倍にしたのは、また別の話。

新規事業の「よくある」修羅場の話まとめ・教訓

①新規事業立ち上げ期では、このくらいの修羅場=人が飛ばされたり、裏切りがあったり、対立があったりは、「よくある」。新規事業に携わる人は少なくとも「よくある」という心構えがないと乗り切れない

② ①と近いが、世に情報がでないだけで新規事業の成功物語の裏には、このような失敗がゴロゴロある。

(文責:プロジェクトファシリテーター、ロジカルシンキング講師 海老原一司)


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