誤解学:論理的でわかりやすい文章を書く

『誤解学』で考える論理的な文章の書き方

ロジカルシンキング講師の海老原です。

論理的な文章を書くには、誤解の仕組みを理解しコミュニケーションミスを最小限に抑えることが有効です。

本記事では、書籍「誤解学」と論理的な文章の書き方の関係について考察します。

※ 過去の筆者作成記事を基に大幅に加筆修正

書籍「誤解学」とは

「誤解学」は「渋滞学」で有名な東大教授西成活裕さんの著作です。

西成さんは、工学系の科学者です。「誤解学」と聞くと、言語学、コミュニケーション学が主体となりそうな、文系の話題に思えます。

誤解学とは、工学系の科学者が、誤解という言語学領域について論理的に研究した本です。西成さんは、交通渋滞のメカニズムをモデリングにより分析した渋滞学で有名な科学者です。
「誤解学」では、科学者っぽく、誤解のメカニズムをモデリング手法で分析を試みています。

モデリングとは】
ある事象の抽象化されたコンセプトモデル・あるいは数理モデルを作るプロセスである。モデリングによって事象を構成する様々な要素が単純化され、容易に読み取れるようになる。

Wikipediaより

誤解学からの学び

ロジカルシンキング講師として、年100本くらいの文章を個別添削している身としては、誤解を防ぐ方法が、かなり印象に残りました。気に入ったので、ロジカルシンキング研修のテキストに参考解説として加えています。

誤解が生じる最大の原因は、省略

ロジカルシンキング講師として、印象に残ったのは「誤解が生じる原因で最大なものは『省略』にある」という一文。

論理的文章のコツ:誤解を防ぐための省略と無駄の違い

  • 文章では、省略は減らす、無駄は削る。
  • 削っても情報量が変わらないのは無駄。情報量が減るのは省略

「情報量が多い」とは、曖昧さを減らすこと

論理思考講師として、印象に残ったもう一つは、20世紀初頭の電気工学者兼数学者のクロード・シャノンによる情報量の定義の話です。

シャノンの情報量の定義

「情報量は、情報を受けとったことで曖昧さが、どの程度減ったか」をもって計ることができる。

つまり、誤解を防ぐには、相手の持つ曖昧さを減らすこと。曖昧さを減らすことは、相手に多くの情報量を渡すことと同義。ということです。

1948年ベル研究所在勤中に論文「通信の数学的理論」を発表し、それまで曖昧な概念だった「情報」(information)について定量的に扱えるように定義し、情報についての理論(情報理論)という新たな数学的理論を創始した。

翌年書籍『通信の数学的理論』で、シャノンは通信におけるさまざまな基本問題を取り扱うために、エントロピーの概念を導入した。情報の量(情報量)を事象の起こる確率(生起確率)によって定義し、エントロピー(平均情報量)を数式で定義した。

そして、ノイズ(雑音)がない通信路で効率よく情報を伝送するための符号化(「情報源符号化定理」または「シャノンの第一基本定理」)と、ノイズがある通信路で正確に情報を伝送するための誤り訂正符号(「通信路符号化定理」または「シャノンの第二基本定理」)という現在のデータ伝送での最も重要な概念を導入した。

これらの定理は現在、携帯電話などでの通信技術の基礎理論となっており、情報技術の急速な発展に結びついている。

Wikipedia

誤解なく伝わる論理的な文章の書き方

誤解学の学びから誤解なく伝わる論理的な文章の書き方について考えます。

受け手の曖昧さを減らす文章を書く

一つ目は、情報の受け手の曖昧さを減らす文章を書くことです。具体例で考えてみましょう。

  1. 「昨日打合せの件、ご確認ください」
  2. 「昨日打ち合わせたA部財務シミュレーションの件、2パターン作成しました。どちらを選ぶか確認ください。オススメは1です」

1と2を比べた場合、2の方が情報量が多く、受け手の曖昧さが減ることは明らかでしょう。しかし、1のような情報量が少ない文章、受け取った相手の曖昧さが減らない文章はよくメールで受け取っていないでしょうか。

文字が多いと情報量が多いは違う

誤解なく伝わる論理的な文章を書くために、勘違いしてほしくないことがあります。「曖昧さを減らすためには文字数を多くすれば良い」という誤解です。次の文章を見てください。

「先日の件まとめました。遅くなって申し訳ありません。お手数ですが、ご確認いただけますようよろしくお願いいたします。」

この文章は全部で55文字。しかしほぼ何も言っていないに等しい文章です。

誤解なく伝わる論理的な文章は文字数ではなく中身が重要です。受け手の曖昧さを減らす情報密度の高い文章を書きましょう。

誤解生む省略をしない

例えば、同じ状況で上司にメールするとき次の4つの文章が考えられます。

  1. あの件、資料にまとめました
  2. 昨日の打合せの件、資料にまとめました。
  3. 昨日の打合せの件、来月会議資料のドラフトとしてまとめました。
  4. 昨日の打合せの件、来月会議資料のドラフトとしてまとめました。プレゼンの流れを確認の上ご意見ください。

あとになるほど、省略が減り受け手が誤解する可能性が低くなる文章になっています。

書き手の本意が「4.昨日の打合せの件、来月会議資料のドラフトとしてまとめました。プレゼンの流れを確認の上ご意見ください。」としたら、「1.あの件、資料にまとめました。」と伝えるだけでは誤解が生じる可能性大なのは明らかでしょう。

誤解が生じる3大用語

ビジネスメールで日常的に多く使われ、かつ誤解を生む可能性の高い3つの用語があります。

  • 確認(ご確認ください)
  • 検討(ご検討ください)
  • 相談(ご相談です)

「検討」「確認」「相談」。この3つは非常に解釈余地が広い言葉です。解釈余地が広いということは、相手が誤解する、自分の意図と異なる解釈可能性が高くなります。

私が講師を行うロジカルシンキング研修では、メール課題にこの3つが入ると必ずより具体的な意図を確認します。

例えば「確認ください」であれば「情報共有」なのか、「チェックしてフィードバックが欲しい」のか。フィードバックが欲しいのであれば、どこなのか、あるいはどういう視点でチェックして欲しいのか。

意図を確認したうえで、誤解のない文章に修正していきます。

「誤解なく伝わる論理的な文章の書き方」が重要な理由

私はロジカルシンキング研修で「論理的な文章の書き方」を指導しています。その中で、なぜ誤解なく伝わることを重視しているのでしょうか。

論理的な文章を書く上で誤解があると致命的

論理的な文章、わかりやすい文章を書くよう指導していますが、ここで誤解があると致命的です。伝わりやすい、納得しやすい文章を書いても誤解が生じれば台無しになってしまいます。

文章の誤解はなかなか気づけない

私が誤解についての理解が重要と思う点が、文章の誤解はなかなか気づかない、ということです。口頭でも誤解は生じますが、対話によってその場で修正しやすい。

一方、文章、例えばビジネスメールの場合、誤解が生じるのは「相手がメールを読んだとき」です。このとき書き手は読み手の状況を実際にみることができないため、誤解が生じたかどうかわかりません。

例えば、ビジネスメールを書いて、何らかの誤解により相手から返信がこなかったとしましょう。このとき、意図が伝わったのに返信がなかったのか、誤解が生じたのかを区別することは至難の技です。また、誤解があったとして、どのように誤解したかはもっと難しいでしょう。

このように文章による誤解は、長時間気付かれない傾向があります。誤解に気付くのが遅れるほどビジネスに与えるマイナス影響が大きくなります。

誤解なく伝わる論理的な文章の書き方ができると

誤解なく伝わる論理的な文章の書き方ができると何が起こるでしょうか。

メールの数が減る

まず、メールの数が減ります。理想は1つの要件に対して書き手、受け手1通ずつです。同じ要件に対して何度もメールのやりとりをすることはありませんか。誤解のなく伝わる文章が書ければメールの数が大幅に減ります。

メールの数が減ると何がおこるでしょう。

まず、仕事が速くなります。情報伝達にかける時間が減らせるでしょう。
もう一つは、仕事が早くなります。「速い」は仕事のスピード向上ですが、「早い」は仕事が前倒しでできる、短い期間できることです。例えば1回のやりとりに1週間かかるとしたら、一発で要件が伝われれば1週間。3回やりとりしたら3倍の期間になります。

誤解がなく伝われば手戻りがない

誤解がない情報伝達ができれば仕事の手戻りがなくなります。

仕事の手戻りの多くは、仕事の目的、成果物イメージなどの誤解にあります。仕事に対する上司の期待値と部下の認識のギャップが典型的です。

この認識ギャップがわかるのがあとになればなるほど、手戻りが大きくなります。手戻りがないかどうかで、業務効率が大幅に変わります。

また、誤解を最小化していつも手戻りがない状態が作れれば、常に前向きな仕事に時間を使えます。ポジティブに仕事に取り込めることは、個人にとっても、組織全体の生産性を上げるためにも重要でしょう。

相手の時間を奪わない

「相手の時間を奪わない」は、私が誤解のない論理的な文章を書く上で意識していることです。ロジカルシンキング研修受講者にも、この視点を持って欲しいと伝えています。

Aさんが書き手として、省略が多く誤解が生じやすいビジネスメールを書きました。このときAさんは忙しかったのでメールにかける時間がなかったのです。多少メールがわかりにくくても仕方がない、送信してしまおうと考えました。

このときAさんは多少時間を節約して楽になったかもしれません。しかし、メールの受け手は、わかりにくいメールを読むために「余計に」時間を使うことになります。

つまりわかりにくいあなたのメールが相手の時間を奪うことがあるのです。相手の時間を不必要に奪わないことは相手への礼儀であると考えます。

【書籍】『誤解学』紹介

 誤解学は、新潮選書から発売されています。

誤解学は、「誤解」という論理学やコミュニケーション論のごく一部となりそうな狭いトピックを、誤解単体で学問体系として扱っている唯一の本ではないかと思います。

誤解学(新潮選書)


(文責:プロジェクトファシリテーター、ロジカルシンキング講師 海老原 一司)


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