アポロ計画にみる、良い戦略目標設定のコツー「近い目標」を設定する

【良い戦略、悪い戦略】事例で学ぶ良い戦略目標の立て方

戦略を成功に導くポイントの一つが、戦略目標の立て方です。

本記事では、筆者一番の戦略おすすめ本「良い戦略、悪い戦略」のポイントの1つ「近い目標」について解説します。著者は戦略論の大家「リチャード・P・ルメルト」。「世界で最も影響力のあるビジネス思想家ランキング」に毎年選出されています。

近い目標とは何か。なぜ近い目標が良い戦略目標になり得るのか。アポロ計画の事例を使って説明します。

※ 本記事は、過去の筆者作成記事を再編集したものです。

1.良い戦略目標とは「近い目標」

近い目標」とは、「手の届く距離にあって十分に実現可能な戦略目標」を意味します。近い目標は、高くてもよいが達成不可能な目標ではいけません。

近い目標ではなく、遠い戦略目標がよいと考える人もいるでしょう。しかし、それは「近い戦略目標」と「低い戦略目標」を混同している可能性があります。

組織を奮い立たせるような壮大な目標、チャレンジングな目標設定を行うことは重要です。しかし、戦略とは組織全体が長期に亘って追い続けるものです。示された戦略目標が、実現不可能、リアリティがないと思われた時点で戦略の実現は困難になるでしょう。

2.近い戦略目標の成功事例:アポロ計画

ケネディ大統領が選んだ近い戦略目標「月面着陸宣言」

1961年アメリカ合衆国大統領ジョン・F・ケネディは、「1960年代中に人間を月に到達させる」との声明を発表します。アポロ計画です。

アポロ計画は、「壮大な目標」と考えられることが多いです。しかし、フォン・ブラウンという著名なロケット科学者が月面着陸の実現性を考慮し設定しました。つまり、科学的根拠に基づいた「実現可能で、わかりやすい近い目標設定」だったのです。近い目標設定で、アポロ計画参加者の意思統一と士気向上につながり、アポロ計画を成功に導くことができました。

アポロ計画は、アメリカがソ連に勝つための近い戦略目標だった

ケネディ大統領演説時期は米ソ冷戦の時代で、軍事に関わる様々な分野で米ソは競争しています。その中でも重要な分野「宇宙開発競争」で、ソ連は1961年4月ボストーク宇宙船により、人類初の有人宇宙飛行を成功させていました。このため宇宙開発競争にて、アメリカはソ連の後塵を拝しています。

「宇宙開発競争でソ連に勝てる」ということで、アメリカの軍事戦略目標として設定されたのが「月面着陸」です。つまり、「アポロ計画」は、アメリカがソ連に宇宙開発競争で勝つ戦略目標として立てられたのです。

月面着陸は「勝てる戦略目標」である科学的根拠があった

一見無謀とも思えるアポロ計画。しかし、アメリカには宇宙開発競争で勝てる戦略目標としての、科学的根拠がありました。

  • 月面着陸成功には、ソ連はロケットの性能を10倍に飛躍させる必要があり困難。
  • 一方、ソ連より上回っているアメリカの技術リソースをアポロ計画に集中すれば、月面着陸に必要なロケットの性能は達成できる

3.近い戦略目標が、良い戦略目標である2つの理由

戦略目標の曖昧さを減らしリソース集中できる

近い目標は、戦略目標の曖昧さを減らします。それにより、組織目標イメージが統一でき、リソース集中がしやすくなります。たとえば、次の2つの戦略目標を見比べてください。

  • 1960年代中に人間を月に到達させる
  • ソ連に宇宙戦争で勝つ

前者は、壮大ですが、非常に明確でです。大量の人数が関わるアポロ計画プロジェクト参加者の意識を統一させることができます。

一方、後者は、目標が曖昧で「では、具体的に何をすればよいのか」と迷い、各々の解釈でバラバラな行動をしてしまう可能性があります。ゴールに向けたリソース集中が困難です。

近い目標で足場を固め戦略の選択肢を増やす

戦略本の多くでは、状況が流動的になったらリーダーはより先を見越して手を打つべきと言います。

しかし、流動的になるほど先の予測は困難です。将来が不確実であればあるほど、遠くを見通すよりも、近い戦略目標を設定し、足場を固めて選択肢を増やすことが重要です。

(文責:プロジェクトファシリテーター、ロジカルシンキング講師 海老原一司)


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